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見上げて青々と光る空をみて思った。
―なぜ空は青いのであろうか。
鹿児島から沖縄に向かう一隻の小さなフェリーの中に、私は黄昏ていた。見渡せばどこまでも続く珊瑚礁に、思わず見とれてしまった。空は照りつける太陽に照らされた海を反射しているようなキラキラとした青さだ。私はおもむろにタバコを取り出すと、海の青さを堪能するかのように吹かした。
かつて、私も若い時期があったものだ、と私はふと顧みた。とある私立高校に入ったのだが、私はあまり賢いわけでもなく、来る日も来る日も勉強ずくめで、退屈した日々を送っていた。不良とツルんでいた時期もあったが、いつからか面白味もなくなり、次第に避けるようになった。当然ワル上がりの私に仲良くなってくれる輩はほとんどいない。いたとしても相当の物好きか、同じく高校生活を退屈に思っている人くらいであろう。
そんな私にも、一人の"親友"と呼べる人が出来た。名前は「タク」であった。私の名前の頭二文字「ヨシ」を取って『ヨシタク』と呼ばれる程の仲良しで、授業中は勿論のこと、放課後から深夜にいたるまで、二人で語り明かしたこともあった。そんなこともあり、二人は仲良く留年してしまった訳だが・・・。
そんな戦友とも呼べるであろうタクが、この間亡くなった。高校を卒業してバイクの免許を取った1週間後であった。バイクの高性能さを体感しようと走っていたところ、トラックとぶつかり、即死だった。過失は全てタクにあるのだが、私は思わず憤りを覚えてしまった。タクの肢体はグシャグシャになり、臓器は潰れ、見るも無残なものであったそうなのだが、それらはなんとか処理し、遺骨はタクの故郷である沖縄のとある島へおかれたのである。
そのタクの死から今年で3年になるのだが、未だにタクの笑顔が脳裏に焼きついて離れない。タクの笑顔は一言で言い表すとするならこの海の青さのような、爽やかで明るい顔だった。今思うと、とても哀しい顔だな、と錯覚してしまう。―最期の顔も、きっといい顔してたのだろうな・・・。
夕暮れの太陽が海を映し出し、海がオレンジ色に染まっている。影はいつの間にか長くなり、ウミドリが群れをなして飛んでいる。私はタクの墓に手土産の焼酎を供え、合唱した。
「生きていれば、今年で成年だ。・・・一杯やるか。」
2つのコップに焼酎を並々と注ぎ、小さく乾杯をした。初めて飲んだ焼酎の味は、涙交じりのしょっぱい味だった。
帰りの舟の中、私はずっと空を見上げていた。やはり沖縄の風景は変わりやすいもので、夕方であったのがもう一番星が見えている。そのうち星達が箱を開けたように一斉に輝きだす。空はもう夜になっていた。
私の頭で、昼に出した問題提起がまた戻ってきた。空は何故青いのか。タクといたときにはこのような質問は全く思い浮かばなかったが、心に穴が空いたように、このような質問が次々に浮かんでくる。
こんな質問に答えなどない。だから、答えを究明する為に科学者や専門家がいる。世の中に理屈の通ることなんて見上げた空にある一つの星のようなものだ。
ふともういちど空を見上げると、タクが笑っているような気がした。